外資系金融機関からフィンテック企業への転職が難しい理由

長期的に先行きが厳しい外資系金融に見切りをつけ、ベンチャー企業への華麗な転身を遂げる者もいるが…

いわゆるリーマンショック以降、投資銀行の収益性は低下し、給与水準も大幅に下がってきている。リーマンショック以前は、投資銀行は利益の8割程度をトレーディングで稼いだ。ところが、リーマンショックを起因としたボルカールールによって自己投資を大幅に規制されるようになり、投資銀行は以前のように稼げなくなってしまった。

このため、外資系金融に見切りをつけ、インターネット系のベンチャー企業に転身した外資系金融機関出身者が散見されるようになった。WantedlyビットフライヤーFolio、お金のデザイン(THEO)などがそうだ。

特に、インターネット系のベンチャーの中でも、フィンテックと呼ばれる分野は金融的なノウハウを活用できるので、外資系金融機関出身者が活躍できるポジションがあるのだ。

ストックオプションだけでは不十分…

ところが、外資系金融機関からベンチャー企業への転身を図ろうとするものはまだまだ少数であり、ベンチャー企業を活性化するに足りる人材供給源には至っていない。

その大きな理由が、年収の大幅ダウンには耐えられないという点である。良くも悪くも、外資系金融機関の人間は「金で動く」タイプである。この点は同じエリートであっても、外資系戦略コンサルタントとは大きく異なる。

外資系金融機関の場合、30歳を過ぎると、VP(バイス・プレジデント)という管理職に昇格し、年収は3,000万円以上が見込まれる。

他方、ベンチャー企業の場合にはキャッシュベースでの年間給与は出ても1,000万円であり、到底足りない。

それでも、ストックオプションがあるではないかということだが、それでも足りないのだ。どういうことかというと、大手のVC(ベンチャーキャピタル)の幹部によると、時価総額の10%程度は(途中から入ってくる)幹部候補のために用意する旨アドバイスしている。そして、その10%のうち1/3は創業メンバーに、もう1/3は一般社員向けに取っておくようアドバイスする。すると、残りの3-4%が途中採用の部長クラスに支給されるということだ。仮に、幹部候補が10人とすると、一人当たりのストックオプションは0.3%程度となる。

もし、ベンチャー企業IPOに成功すると、そこそこの企業の時価総額は300億円クラスになる。とすると、途中から幹部候補として入社した者が手にする金額は、300億円×0.3%=9000万円となる。

2年間の期間とリスク要因を考慮するので…

年収3000万円でも9000万もあれば十分じゃないかと思われるかも知れない。しかし、外資系金融マンは職業柄リスクを考えるのだ。例えば、成功裏に上場まで行ける可能性を五分五分とした場合には、もらえるストックオプションの期待値は4500万となる。それなら、今の水準をもらい続けた方が得策だと考えるわけだ。

意外に少ないCFOポジション

それから、お金にはそれほどこだわらないから、挑戦したいという若手がいたとしても、もう一つの問題としてポジションがまだまだ多くないということが言える。

外資系金融機関の者が活躍できるポジションというのは、資金調達、株価政策、IR、IPO準備、M&Aなどを担当するCFO関連ポジションであるが、人事や広報・マーケティングと比べてもまだまだ多くない。ベンチャービジネスのオペレーションに直接かかわらないポジションであるので、エンジニア、採用担当者、マーケティング担当者よりも後回しにされがちである。また、ベンチャー経営者自体が、金融の専門家ではないので、潜在的なニーズに気づいていない場合もある。

将来の日本経済を活性化させるためにはベンチャー企業の活躍が不可避である。そこで、斜陽の金融業から成長を担うインターネットベンチャー企業へのスムーズな流れが期待されるが、現実はまだまだ理想通りにはいっていない。