【書評】「定年後」を読んで。大切なのはファイナンシャル・プランよりもキャリア・プラン
楠木新氏の「定年後」がベストセラーとなっている。定年後を考えると、ファイナンシャル・プランニングが重要になると考え、読んでみた。
意外なことに、「お金」「資産運用」の話がほとんどない。
ところが、意外なことに本書ではお金や資産運用に関する話はほとんど言及されていない。大企業のサラリーマンを前提とした本なので、退職金と手厚い企業年金があるので、お金に困ることは基本的に多くないということなのだろう。
実際、著者の楠木新さんは多くの定年退職者にインタビューをされているが、お金に困ったという事例はでてきていない。
お金以上に、「居場所」がない辛さが大変である。
お金よりも、定年後は「居場所」が無くなることがいかに辛いことかということがわかる。まず、会社、職場が無くなってしまう。通勤の必要が無い、ランチを取る相手もいない、会議もない、仕事におけるお客さんとの会話もない、仕事帰りに飲みに行くことも無い。現役時代に当たり前のようにあった出来事や人との交わりが全て消え去ってしまうのだ。
職場がないだけでなく、地域社会にも居場所は無い。地方の場合は現役時代から、農業や青年団などを通じた会社・役所以外の活躍の場があるが、都市部の場合にはそういった付き合いはない。従って、地元でボランティアとか町内活動をやってみようと思っても、定年前から準備をしていない限り、地域社会にも居場所は無いのだ。
家庭にも居場所がない。これは、テレビドラマ、週刊誌、映画でもいろいろとネタになっているので何となく想像がつく人も少なくないだろう。平日のほとんどの時間家にいなかった亭主(父親)が朝から晩まで家にいるのだ。特に、奥さんの生活は一変してしまう。基本的に家にはいずらくなるので、喫茶店、図書館、スポーツクラブ、公園、ショッピングセンターに日中さまようことになるのだ。
この問題は想像以上に難しい問題だ。奥さんが精神に支障をきたしたり、家庭内暴力が原因で定年離婚になってしまう問題もあるという。
ここでいう、キャリア・プランとはお金をもらえる仕事に限定されない。
本書の特色は、定年後の「居場所」の在り方を具体的な事例を交えて紹介していることである。「居場所」とは就職先とか仕事といったお金をもらえることに限定されない。例えば、誰かとバンドを組んで音楽活動をするとか、提灯職人になるとか、NPOメンバーになるとか、自分が活躍できる、或いは、自分が本当に好きなことをできることを見つけることがお金を稼ぐこと以上に重要なのだ。
就職先も、給料水準や世間体の良さが重要なのではない。現役時代はずっと経理とか管理関係の仕事をしていた人が、スーパーマーケットの現場で体を動かせて現場感がある仕事にやりがいを感じている人もいる。
50歳を過ぎると、自分が本当に好きなこと、やりたいことを考えることが充実した定年後を送るために重要のようだ。定年になってからでは遅いので、常日頃、どういうことをやりたいか考える必要があるだろう。