東大・京大生の就職人気ランキングの歴史・変遷から、将来のおすすめキャリアについて考察してみた

ワンキャリアが東大・京大生を対象にした就職人気企業ランキングを公表しているが、

人気が特定の業種に集中しているのが気になるところである。

しかし、振り返ってみると、いつの時代もその時の外部環境に応じて特定の業種に

人気が集中していた。

 

そこで、過去の就職人気企業を歴史的に振り返ってみて、将来どういったキャリアを

志向するのが得策なのかについて考察してみた。

 

(ワンキャリアのランキングはこちら。)

www.onecareer.jp

 

1. トップ学生の就職人気企業ランキングの歴史について

①年代別の人気企業の変遷と特徴

〇バブル期(1985~1991年頃)

 

 まず、民間企業の人気度云々以前に、東大法学部生は司法試験・官僚を目指しており、法学部においては、そもそも、弁護士・官僚>∞>民間企業という時代であった。

外銀・外コンの採用も無くはなかったが、人数があまりに少なく、そもそも人気ランキングの対象にならないような状況であった。

 

 そうした中、圧倒的な人気企業は「興銀」であった。

野村證券大和証券の収益は絶好調であったが、当時はコース別採用が無く、

東大でも最初リテール店に配属されるリスクがあったので、証券会社は人気がなかった。

また、バブル期の象徴は地価高騰であり、三井不動産三菱地所の2社は採用数が少ないことも手伝って、東大・京大からも入社は困難であった。

 当時の特徴としては、「商社冬の時代」と言われ、総合商社の人気が高くなかった。

実際、年俸水準も今の8掛け位であり、給与水準は野村、東京海上、日生に劣後していた。

 

バブル崩壊、景気低迷期(1992~1999年頃)

 

 この時代も依然として、東大法学部生は司法試験・官僚を目指しており、ますます、

弁護士・官僚>∞>民間企業という序列であった。

 金融では90年代半ば頃から、ソロモン・ブラザーズ裁定取引により知られ始め、

外銀の存在が少しずつ認知されていった。

金融や不動産が凋落する中、キー局などは人気があり、東大からも入社は困難であった。

 なお、東証マザーズが創立されたのは1999年11月であり、起業という発想は学生の間には影も形もなかった。

 また、民間企業(製造業)の不振に伴い、医学部の難易度がじわじわと上昇をし始めた。

 

〇第1次ITバブル~リーマンショックまで(2000~2009頃)

 

 東証マザーズ設立(1999年11月)を契機として、ヤフー、楽天サイバーエージェントなどのネット系企業が次々と上場したのがこの時期であった。

短期間であったが、金融危機を乗り越えた後、ITバブルで大いに盛り上がった。

2001.9.11の米国テロ事件により景気は一時後退したものの、リーマンショックまでの間は景気が良い時代であった。

 

 人気企業は外銀であり、完全にトップ学生の間に知れ渡り、難関化した。

外コンも今ほどではないが、トップ学生の間のプレゼンスを上昇させ、難関化が進んだ。

資源価格の高騰に伴い、商社の年俸水準と評価が上昇し、トップ学生の間での人気が上昇していった。

 2005年にホリエモンがメディアに本格的に登場し、ネット系企業も注目を集めたが、

東大生が集中するような人気企業は見られなかった。

 なお、新司法試験制度が2006年に開始し、東大法学部生の、弁護士>∞>民間企業を変革するきっかけとなった。また、同時に天下り先の規制や、年収重視という現実的な価値観が増え始め、官僚も人気が徐々になくなっていたのがこの時期である。

 

リーマンショック後~現在まで (2009~2018頃)

 

 リーマンショックに伴う規制によって、投資銀行の収益性が大幅に低下し、外銀の人気がやや低下していった(とはいえ、まだまだ人気は高いが…)。

反対に、外コンの人気が著しく、従来から難関であった戦略系(マッキンゼー、BCG、ベイン、ATカーニー、ローランドベルガー、アーサーDリトル)に加え、

総合系(アクセンチュア、デロイト、PwC、KPMG、EY)、独立系(DI、コーポレート・ディレクション経営共創基盤)も急速に難化している。

 総合商社は相変わらず人気が高く、外銀を蹴って三菱商事を選択する学生もいる。

 

 また、まだまだごく少数であるが、学生の間に起業をして億単位のEXITに成功するものや、フリーランスで年商1億円を超えるエンジニアが登場しはじめたことが注目される。サイバーエージェントDeNA、グリーなどはそれなりに人気はあるものの、東大生が入社できないほどの人気は無い。

 この時期の特徴として、弁護士・官僚の人気が完全に凋落した。他方、医学部人気は高騰し続け、まだまだ留まる兆しがない。

 

②人気の変遷を振り返ってみて、気が付いたこと

 〇学生の判断基準は、「生涯賃金の期待値」ではないか?

 バブル崩壊後の約20年間、トップ学生の間の3強は、外銀、外コン、総合商社であろう。これも考えてみるとおかしな話で、3業態とも、業務内容、給与水準、キャリアパスなどが全く異なっている。それにも関わらず、この3つを併願する学生は少なく無いようだ。

 思うに、これは「生涯賃金の期待値」が高い上位3業態ではないだろうか?

生涯賃金の期待値」は、

・給与水準

・転職力

・安定性(リスク)

の3要素に分解できるだろう。

 

一番単純なのは、総合商社で。まず6億円の生涯賃金を高確率で手にすることができるだろう。

 

外銀の場合、給与水準は圧倒的に高いが、その分安定性は極めて低い(リスクが高い)。したがって、20年間勤め上げMDまで昇格すれば、10億円を遥かに上回る生涯賃金が得られるが、そこまで到達できる期待値は低い。

さらに、転職力は金融業界内(但し年齢制限あり)かベンチャーCFO(数多くない)に限られるので、転職力は低い。

 

外コンの場合は、給与水準はそれほど高くなく、安定性も低い。

しかし、何といっても抜群に転職力が高い。業界を問わずベンチャー(経営企画系はどこの会社でもニーズがある)でも、どこでも行くところがある。

また、経営全般を見れるので、総合商社や外銀と違って、起業・独立するためのノウハウも付きやすい。

 

その意味で、トップ学生は、年収、安定性、転職力という要素を、意識的か無意識的かはわからないが、総合的に判断して会社選びをしているのである。

この点は、さすがと言えるかも知れない。

 

そうであれば、従来より生涯賃金6億円と言われる東京海上は、もうちょっと上位でもいいかも知れないが、少子高齢化フィンテックによる不安に伴う安定性と、圧倒的な転職力の低さを厳しく見ているのかも知れない。

 

〇地味に凄いのは、電通博報堂

 

採用数が多くないのと、業界が特殊だからか、最上位にこそ来ないものの、30年以上ずっと上位にランクされるのは、電通博報堂である。

ワンキャリアのランキングには、キー局は入っていないし、興銀なんて会社自体がとっくにない。

リクルートなんていい会社なんだけど、東大生からするとプレミアム感に欠けるようで、昔から上位にはランクされていない。

その点、電通博報堂であれば、大昔から今でも、東大生でも胸を張って言える企業である。

確かに、両社はそれなりの高給で安定しているし、転職力も「広告・宣伝」という切り口があるので、総合商社よりは勝っている。

両社は地味にランクの下の方に入っているので、コンサルの下位を狙うくらいなら、こっちに切り替えた方が賢明ではなかろうか?

 

2. トップ学生のための将来のキャリアを考察してみる

①金融業界について

年収水準と安定性(リスク)を考えれば、就職偏差値で外銀が固まって上位を占めているというのはおかしい気がする。

米国系と欧州系では年収水準も安定性(リスク)も結構異なっていることに気づいてくるのだろうか?

外銀の場合、採用人数が少ないし、入社してもすぐに辞める人が多いので、情報を収集するのが難しいのかも知れない。

ただ、着実に、ゴールドマン・サックスと欧州系の差は開いてくるだろう。

 

また、金融業界でまだほとんど知られていない穴場が、外資系運用業界である。

新卒採用を行う会社が限られており、小規模の会社が多数あるので、情報が拡散しにくいのだろう。

外資系証券のように5000万~1億円は厳しいが、3000~4000万円は普通に狙えるし、安定性は高いし、新規参入やヘッジファンドも含めて行くところが多い。

すぐには知られないだろうが、少しずつ人気が出るかも知れない。

 

コンサルティング業界について

戦略系に釣られてか、総合系や独立系まで異常に人気が高騰しているコンサルティング・ファームである。明らかにバブルであると言いたいところだが、需要も高まって来ているし、提供するサービス内容も変化してきている。

まだこれから5年間は拡大し続け、そうなると認知度も高まるので、まだまだブームは終わらないのだろう。

 

もっとも、昔は戦略系全部合わせて30人位しか新卒採用はいなかったのだが、現在では数百人規模に拡大している。

このまま拡大し続けると、10年後位にはコモディティ化していそうで、行くなら早めに勝負(転職・独立)したいところだ。

 

ベンチャー・起業関係

一時より人気は落ちているようだが、今でも、楽天サイバーエージェントDeNAあたりに就職しているトップ学生は多い。

ただ、既上場のベンチャーに行ったところで最早ストック・オプションの妙味は無いし、給与水準も初任給が高いだけで、その後の昇給は極めて低い。

そして、既に大規模化しているので、業務は細分傾向にあり、得るものは少ない。

子会社株式を渡すなどのインセンティブを設けたらいいのだが、本気で取り組もうという企業は見当たらない。

強いて言えば、メルカリくらいか、上場後も本気で優秀な人材を確保し、成長しようとしているところは。

そういうわけで、トップ学生が既上場ベンチャーに行く妙味は無いのではなかろうか?

 

これから面白いところがあるとすれば、非上場(というか上場する気が無い)の、

高収益ベンチャー企業だ。

人数でいうと10人にも満たないところか、せいぜい数十人位の規模感だが、一人当たりの収益性が異常に高い会社だ。

専門性が高い社員ばかりで構成されるベンチャー組織で、各社員が経営者としての自覚をもって行動しており、歩合的な報酬体系だが若い時から数千万円が可能という世界だ。

例えば、このような会社である。

assist-news.site

少人数で儲かっていて、仕事がバンバン来るようなベンチャーは、東京にはいくつもあるようだが、そういうところは宣伝する必要も無いので、なかなか知られない。

優秀な少数の人達と一緒に仕事を進めるので、スキルも高まるし、顧客とも近い。

会社名は誰も知らなくても、高い転職力を習得することが期待できる。

 

トップ学生たちはコンサバだし、右へ倣え的な傾向が強いので、主流にはならないのだろうが、今後地味に増えていきそうだ。

 

また、東大工学部の上位5%でプログラミング能力が高い生徒の間では、既に起こっていることだが、フリーランスで稼げる若手が出てきている。

単なる受託開発でも、月商数百万円というレベル感だ。

このあたりも、将来的には地味ながら拡がっていくのではないか。

 

④その他

トップ学生が重視するファクターは、

・給与水準、

・転職力、

・安定性、

あたりにあるようだ。そうであれば、「転職力」、言い換えれば普遍的な持ち出し可能な業界横断的に使えるスキル、を身に着けることができる就職先は他にもありそうだ。

 

業界横断的に使えるスキルとしては、「ファイナンス」、「人事・労務」、「広告・宣伝」があげられるだろう(プログラミングが最強だが、ここでは触れない)。

Wantedlyとか、Career Carverあたりでも、この3つの需要は業界関係なく多い。

 

ファイナンス」ということであれば、国内系証券会社のコース別採用(IBDないしはリサーチ)がいいだろう。それなりに難関なのだろうが、外銀やコンサルと比べると、遥かに入りやすい。

 

「人事・労務」というと、リクルートだろう。また、リンク・アンド・モチベーションというブティック系もある。東大生にとってはリクルートはプレミアム感が少ないのか、人気は高くなさそうであるが、一社目(例えば、メガバンク、保険、メーカー)が嫌になって第二新卒で他を探すような場合には、おすすめである。

 

「広告・宣伝」であれば、電通博報堂である。

東大生の場合、どこまでなら業界順位を落としてもいいのかよくわからいところがあるが、ADKとか東急エージェンシーあたりまでなら拡げてもいいのではないだろうか?

 

最後に

いつの時代もトップ学生の人気企業は、特定の少数の業種・企業に集中しがちである。

外銀・コンサル人気は理解できるが、そのうち、どこでどういったスキルを身に着け、将来どのように活用していくのかについて、自分自身の適性を踏まえた上で、もう一歩踏み込んで考えるべきではないだろうか。

 

今後は、物凄く儲かる非上場の企業・組織が増えていくのだろうから、そのような美味しい働き口を如何にして発掘できるかといった情報収集力がカギになるのではないか。

 

バイト、ゼミ、サークル、体育会で、大企業狙いというのは構わないが、起業・独立にも目を向けると、知らない世界が見えてくるのではないだろうか。