【書評】田端信太郎著「ブランド人になれ!会社の奴隷解放宣言」読了。アマゾンレビューで酷評されているが、転職によるキャリア形成にあたって十分に参考になる本。
ビジネス書で売れているにも関わらず、これほどアマゾンレビューで酷評されている本は初めてみた。好き嫌い分かれるのは著者の想定内であろうが、転職によるキャリア形成を考えるにあたっては十分に参考になる。
https://www.amazon.co.jp/ブランド人になれ-会社の奴隷解放宣言-NewsPicks-Book-信太郎/dp/4344033175
1. 実は第1社目のNTTデータは、キャリア形成において必要がなかった。
田端さんは、新卒で就職したNTTデータについては、猛烈に働くことを覚えた2年間であったとし、満足されているようだ。
しかし、客観的に見ると、1社目のNTTデータは失敗とまでは言わないが、大成功とはいえないだろう。
そもそも、外資系コンサル等を除けば、1社目で職歴2年というのはキャリアにならず、社会人としての作法を学んだくらいにしか見られないからだ。
でも、田端さんが優れているのは、わずか2年でNTTデータを見限って、転職に踏み切ったことだ。このあたりの決断力と行動力は成功の秘訣である。
2. 第2社目のリクルートが彼のコアスキルの源流となった。
田端さんのキャリアの中で大成功だったのが2社目のリクルートだ。
R25という彼の最初の功績を作れた会社であるし、若くして裁量を与えられ活躍することが可能な数少ない日本企業である。
結果論であるが、田端さんは新卒でリクルートに入っていれば良かったのだが、その後うまく行ったので、NTTデータで転職カードを1枚余分に使うことになった程度なので問題は無いだろう。
この2社目でリクルートというのは、一般的に使用可能な転職カードである。
高学歴で就職偏差値の高い就職に成功したものの、「ブランド人」には慣れないと判断した人は、是非考えるべき選択肢であろう。
20代であれば、業種・職種関係なくポテンシャル採用してもらえるので、銀行、損保のリテール配属に嫌気がさしたり、トヨタや三菱重工の重厚長大の工場勤務で嫌になったというエリートサラリーマンにとっては、第二新卒カードを使ってリクルートに行くというのは極めて有効だ。
しかし、第二新卒カードを使えるのは、25-27位なので、潰しの効かない業種・職種に就いてしまった人は時間切れに注意しなければならない。
3. 実は失敗だったと思われるライブドアへの転職
田端さんは前向きに考えられる人なので、本人は良いキャリアだとされているライブドアであるが、結果的にはその後はうまく行ったものの、客観的には失敗だったのではないかと思われる。
潰れかけの会社であれば、何でもできるし手柄も自分のものになるという考え方には一理あるが、多くの場合はマイナスキャリアにしかならない。
例えば、金融界だと元リーマン・ブラザーズの人はその職歴を必要以上に答えたがらない。何故なら、誰も「会社が厳しい中でよく頑張った」と好意的にとらえてくれないからである。「証券マンなのに潰れた会社を選ぶなんて相場観が悪い」「潰れるような会社にいても大した仕事はできない」「運気が下がる」といった程度にしか思ってもらえない。
したがって、沈みかけた会社にいる場合には、さっさと脱出するのがセオリーである。
それに、傾いた会社から脱出したところで、誰も「裏切者」とかは思わない。
4. コンデナストはまずまず
知名度が低いからか、田端さんは余り多くを語らないこの4社目である。VogueとGQのデジタル化という彼のメディア・スペシャリストとしての経歴を固めたものであるので転職としては成功だと思う。
もっとも、田端さんのいう「ブランド人」になるためには、それなりの派手さのあるわかりやすい経歴の方が望ましいのであろうから、ここは少し地味すぎたのであろう。
2年間という短期間で次に移っていることからもうかがえる。
しかし、「職種」「スキル」というのが転職によるキャリア形成において重要であるので、この「職種」と「スキル」を固めることができた2年間は悪くなかったと思われる。
5. 1社目~4社目の総括:実はこの時点では「ブランド人」とは思われない
華々しい経歴とされている田端さんであるが、実は転職4社を終えた時点では「ブランド人」としては不十分であると思われる。
何故か?それは「年収」である。ライブドアとかコンデナストでは、せいぜいメガバンクかそれ以下の年収しかなかったのではないだろうか?もともと特別給与水準が高い企業ではないし、ストック・オプションも無かったからである。
ある意味、この時点では本書は出版できなかっただろう。
6. 5社目のLINEが彼の中で最高の転職であった。
田端さんの転職キャリアの中で最高の転職となったのが、5社目のLINEであろう。
それは、シンプルに「執行役員」という肩書と「ストック・オプション」という、いわゆる金と名誉を手にすることができたからである。
LINEは一般に渋い会社で、田端さんは0.02%しか株をもらっていなかったと、どこかのサイトにあったが、現在のLINEの時価総額は1兆円くらいなので、2億円相当の資産を持つことができた(いくらで売却・行使されているかはわからないが)。
また、LINEという誰でも知っている会社の執行役員というステイタスも入手できた。
もちろん、広告ビジネスの基盤を作るという実績も形成できた。
その成功には、1社目~4社目のキャリアとスキルがあったからこそ、上のポジションでLINEに転職できたのであるが、LINEがコケていたら今の彼はなかったので、先を読む能力というのが極めて重要であることがわかる。
7. 田端さんの今後の課題
余計なお世話ながら、田端さんの今後のキャリア形成上の課題を考えてみたい。
第一は年収を本当の「ブランド人」レベルに上げることである。
LINEもZOZOも一般的には高給の会社ではないので、田端さんのような執行役員クラスでも3000万円位ではないか?その水準であれば、40歳で外資コンサルとか外銀だとそれより多い人はゴロゴロいるからである。
外資コンサルだと一番上のパートナーまで行かなくとも部長クラスのプリンシプルで3000万円程度はあるだろう。
外銀だと、MDまで行かなくとも、SVPとかDirectorレベルで3000-5000万くらいはあるだろう。
やはり、真の「ブランド人」と文句なく言えるためには年収1億は要るだろう。
もちろん、ストック・オプションでもいいが。
第二は、「独立しても稼げるか?」である。
イケダハヤト氏とかはあちゅうとか、個人でやっている人たちで成功している人は会社の後ろ盾がなくとも、1億程度は稼げると言われている。
果たして、田端さんはどうだろうか?会社の名前が無くとも、何やっても稼げるようになれれば真の「ブランド人」ではないだろうか?
いずれにせよ、田端さんんは転職を通じてキャリア形成に成功している。
特にポテンシャル採用、第二新卒カードが使える20代のサラリーマンはこれを読んで、自分自身のキャリアを考えてみたいところだ。