朝倉祐介著「ファイナンス思考」を読んで、就活や転職するのに良い会社について考えてみた。
目先の会計上の利益に囚われずに、「ファイナンス思考」で企業価値の最大化を図ろう!
本書の帯の「日本にAmazonが生まれない理由は目先の売上・利益にとらわれる「PL脳」にあった!」というキャッチフレーズに惹かれて買ってみた。
本書の言う、「ファイナンス思考」を実践すれば、日本企業からGAFAのような将来を担う巨大企業が生まれるかもと思うと、大いに期待ができる。
「ファイナンス思考」とは何か?
ファイナンス思考とは、
「会社の企業価値を最大化するために、長期的な目線に立って事業や財務に関する戦略を総合的に組み立てる考え方」という。
要するに、多くの日本企業が陥っている短期的な会計上の利益の追求のみにとらわれずに、「将来に稼ぐと期待できるお金の総額を最大化しようとうする発想」ということだ。
ファイナンス思考は、価値志向であり、長期志向であり、未来志向であるという。
それでは、「ファイナンス思考」は単にDCF法に基づくキャッシュフロー経営のことか?
結局そういうことを言っているのだが、本書では、キャッシュフローに基づく企業価値を最大化するための手法として、4つの活動を分類している。
A. 外部からの資金調達
B. 資金の創出
C. 資産の最適配分
D. ステークホルダー・コミュニケーション
言い換えると、
Aの外部からの資金調達とはデットとエクイティを使って最適な資金調達を図ることである。
Bはいわゆるキャッシュフロー管理の最適化だ。
Cは、既存事業のスクラップ&ビルド、集中と選択による事業ポートフォリオの最適化だ。手段としてはM&Aを駆使する場合も多い。
Dは、優れたIR活動だ。
本書では「ファイナンス思考を活かした経営」の良い例として5つの日本企業が紹介されている。
本書では成功事例として、5つの日本企業の事例が分析・紹介されている。
リクルート、JT(日本たばこ)、関西ペイント、コニカミノルタ、日立製作所の5社だ。
これらの会社は、上記のA~Dの手法を活用して、自己資本比率の悪化、収益性の低下といった苦境を脱出し、企業価値を高めることに成功した。
ただ、これらの会社の事例は既に経済誌でも取り上げられているし、何よりも、とてもGAFAになれるような企業ではないが…
まあ書かれていることはこの通りなのだろうが、結局事業リストラを断行し、海外M&Aの成功で新しいコア事業を創出できたということである。
それはそれで素晴らしいことなのだが、手法やスケール感においても、GAFAになれるかどうかといったレベルの話ではない気がした。
確かに、表紙をよく読むと「日本企業を蝕む病と、再生の戦略論」と書いてあった…
本書の事例で取り上げられている企業は、リクルートは多少違うかも知れないが、他の事例は昔からある日本企業で成長企業、ベンチャー企業ではない。
だから、「日本からGAFAを生み出す方法!」というよりは、伸び悩む既存の大手企業をどう改善させるかという方向性の本である。
その中での最大の気づきは、「資産の最適配分」ができる企業、人材が日本にはいないのではないかということだ
しかし、本書の中で気づいた面白い点は、ファイナンス思考を実現する4つの方策のうち、「資産の最適配分」を実行できる企業や人材がいないのではないかということだ。
反対に、「資産の最適配分」ができる人材は、大企業・ベンチャーを問わず、引っ張りだこではないかということだ。
資金調達、キャッシュフロー管理、IRができる企業や人材はある程度はある
本書では、ファイナンス思考を実現する4つの方策を挙げているが、そのうち3つ、Aの資金調達、Bのキャッシュフロー管理、DのIRはすでにそこそこできている企業はあるし、ノウハウとしてもある程度汎用化されたものでありそれができる人材も少なくない。
しかし、Cの「資産の最適配分」、言い換えるとM&Aを駆使した会社の事業ポートフォリオの最適化ができる人材は、ほとんどいないのではないだろうか?
「資産の最適配分」が難しい理由
資産の最適配分は難しい。何故なら、どの事業分野が伸びて、どの事業分野が衰退するかについて予測があたるかどうかはわからないからだ。
将来は誰にもわからない。そういった中で何が伸びて何が衰退するかを事前に正確によそうすることは不可能だ。その意味で、単なる経験とかノウハウではなく、勘とかセンスが要求されるものかも知れない。
だから、一番賢いとされる人たち、外コンと外銀の人達を連れてきてもうまく行くとは限らない。彼らは、分析のプロではあるが、将来予測のプロとは限らないからだ。
その証拠に、DeNAとかグリーとか、ソシャゲ全盛期に外コンや外銀の若手を沢山採用したが、ソシャゲ以外の新規事業は全然育っていない(むしろ、大失敗している…)。
新規事業をやる代わりに、オリジナルのスマホゲーム(パズドラ、モンストに代わるようなもの)をたった一つでもプロデュースできたら全然違っていたのに、外コンや外銀エリートはゲームなんてやらないから、脱ゲーム化したいというバイアスがあったのだろうけど…
ここでいうM&Aは、外銀がもっているノウハウとは異なる
なお、M&Aは外銀の人達ならできるじゃないかという意見もあるかも知れない。
しかし、ここで要求されるM&Aのスキルは外銀の人達がもっているM&Aのスキルではない。
資産の最適配分で求められるM&Aのノウハウは、「何を買えばいいか」のノウハウであって、外銀がもっているのは、事業会社が既に決断したM&Aを遂行するノウハウだ。
外銀のM&AというのはM&Aの「仲介」のスキルであって、何を買えばうまくいくのかを予想するノウハウではないのだ。
もっとも、外コンや外銀の人達がダメだと言っているのではなく、「資産の最適配分」は将来の予測の精度が求めらえる分野であって、誰にとっても難しい分野であるということだ。
会社の事業ポートフォリオの再構築に携わる仕事に就きたい!
資産の最適配分に関わる仕事は、大変重要だし、できる人がいない。
従って、就活や転職の観点からすると非常に有望な分野だ。
外コンや外銀のような高いIQや高度な計算能力に裏打ちされた分析力があっても、将来予想ができるかというわけではない。
勘やセンスがカギであるならば、一旦そういった業務を経験すると、スーパーヒーローになれるかも知れないのだ!
とはいえ、それでは、どんな会社のどんなポジションを狙えばいいのか?
しかし、資産の最適配分に携えるポジションに就くにはどうすれば良いか、具体的に考えると難しい。
まず、既存の大企業について考えると、結局、「経営企画室」とか「社長室」ということになる。
それらの部門はエリートが配属されるものなので、狙っていけるものではない。
職種別採用を行わないほとんどの日本企業を考えると、そういった部署に配属されるのは難しい。
さらに、大企業の経営企画室とかは大きい組織で、その中でも業務が細分されているので、どの事業を売ってどの事業を買うといった業務に関与できる確率はさらに低い。
そう考えると、大企業で資産の最適配分の仕事を経験するのは、新卒、中途採用を問わず、難しい気がする。
となると、ベンチャー企業はどうか?
ベンチャー企業は、日立のような幅広い事業を営んでいないが、限られた分野の中では様々な事業を試行錯誤しながら手掛けたりしている。
例えば、Croozなんてゲームメインの会社だったけど、いろいろな新規事業に手を出し、今ではShoplistというECの会社になっている。
また、著者の朝倉さんが社長をやっていたMixiだってネット上のコミュニティで、本業が苦しくなって、出会い系ビジネスやゲームとかに手を出したところ、結果的にモンストがバカ売れしたわけだ。
そういうことを考えると、やっぱりベンチャー企業にはいろいろとチャンスがあるわけだ。
WantedlyとかGreenとかビズリーチとかで検索かけてみたけど…
さっそく、Wantedly、Green、ビズリーチとアプリを使って調べてみたけど、単なる「経営企画」「事業開発」というポジションはいくらでもあるけど、具体的にどんな内容かまではわからない。
そこそこ大きいとこだと分業化されているので、会社の事業ポートフォリオを考えるポジションはもっと上のポジションじゃないと無理かも知れない。
とりあえず、見つけたのは、
〇Freee株式会社:Fintechの世界で、価値ある新規事業を開発したいメンバー募集中!
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〇ウェルスナビ:あなたの力でFintechスタートアップの成長を加速させてみませんか?
〇株式会社一休:CEO直下でサービスの方向性を定めるディレクターを募集!
だけど、何となく違うかも知れない。たぶん、もっと守備範囲が限定されているのでしょう。
となると、本当に小さいベンチャー企業か…
上場していないとは言え、Wantedlyとかビズリーチで検索にかかるのはそこそこの組織の企業が多いのかも知れない。
もっと小さいスタートアップ企業だと、そのようなセンスを磨く体験ができるのかも知れないけど、見つけるのが難しいし、中途だとリスクも高そう。
そうであれば、学生時代のインターンとかバイトとかで、小さいベンチャーで経験してみるのはいいかも知れない。事業ポートフォリオなんて大きいものではないけど、考えるいい機会かも知れない。
よくよく考えると、事業ポートフォリオに携わる部署にいたからといって、そのスキルが磨かれるわけではない…
振り出しに戻るみたいな感じだけど、単なる経験の問題ではないわけだから、該当するようなポジションを探しても仕方ないのかも知れない。
ただ、外銀や外コンではない気がする。何故なら、彼らは当事者ではないから。
となると、やはりベンチャー企業で適切な事業分野とは何かについて意識しながら実際に働いてみるのがいいのだろう。
もっとも、それは必要条件で十分条件では無いのだろうが…