「ポスト平成のキャリア戦略」読了。新卒でも中途採用でも最も求められる「新規事業創造能力」について考えてみた。

経営共創基盤取締役の塩野誠氏とNwwsPicks編集長の佐々木紀彦氏の対談形式の書籍である。

https://www.amazon.co.jp/ポスト平成のキャリア戦略-NewsPicks-Book-塩野誠-ebook/dp/B078GCRDLB

新卒、中途採用を問わず、最も必要とされるにもかかわらず絶望的に人材が不足しているのが、「新規事業創造能力」を有する人材である。

少子高齢化に伴い国内経済が伸びず、海外進出をするにもグローバル人材が不足している。ITを中心とする将来の成長性が期待できる事業については、GAFAを代表とする米国企業にとても敵わない。

このような環境下、大手企業であれベンチャー企業であれ、新規事業を創造していかないと将来は厳しいという結論は納得しやすいであろう。

しかし、新規事業を創造することができる能力を有する人材は絶望的に不足している。何故だろうか?

就活生は新規事業がやりたくて大手を目指すわけではない。

まず、就活生はそもそも新規事業などには興味が無い。ネームバリューがあって、給料が良くて安定してる(と思われる)から、大手を狙うわけだからである。

この点、塩野氏も佐々木氏も大学で教鞭をとったりされているのだが、学生の質は低下しており、学生の意識がそう簡単に変わるとは考えていない。

それは、日本の平和で豊かな経済環境で、少子化(15年前は1学年が200万人超だったのに対し、現在は120万人に減少)により大学入学の易化と相まって、困難でも新しいことに挑戦したいと志向する学生は生まれにくいということだ。

でも、専コンとか総合商社の人気が高いので、新規事業にも関心があるトップ層の学生もいるのでは?

総合商社を志望する理由として、新規事業への投資に興味がある学生もいるだろう。

しかし、塩野氏が言うには、総合商社或いは事業会社が新規事業に関与するのは、大株主としての立場であり、本当の中小企業のように資金繰りに追われるような立場にない。

ベンチャー企業がバーンレート(会社を継続するために1か月あたり資金がいくら必要かという指標。1か月1000万円必要だとすると、1億2000万円ないと1年間事業継続できないということ)を気にしつつ、経営における修羅場を経験し、しびれるような体験をしないと本当の事業創造はできないという。

戦コンは、第三者の立場でのアドバイスなので、もともと自らゼロから事業を創造するようなビジネスではない。そもそもクライアントも全て大企業だ。

従って、新規事業に「関わる」ことはあっても、ゼロから事業を創造することを企図しない総合商社とか、戦コンの中にも、新規事業を創造できるような人材は多くないという。

大企業の既存の社員の中には、なおさら存在しない。

塩野氏が本書では「年功序列」はむしろ強まっているのではないかと指摘している。「終身雇用」もまだまだ残存しており、わざわざ大企業にいる人が、苦労してまで新規事業をやろうというモチベーションが存在しない。

例え新規事業が成功しても、大企業の場合、ストックオプション等のインセンティブ制度が充実していないのである。

新規事業の創造は、サイバーエージェントでさえ難しい…

industry-co-creation.com

実は安定志向の大企業だけではなく、ベンチャー企業の雄、サイバーエージェントですら、新規事業の創造は難しい。

「ジギョつく!」という新規事業創造の社内制度は10年以上継続して実施してきたが、芽が出ないまま終了してしまったという。

それに代わり、「あした会議」という取締役が主体の新規事業創造の仕組みを作ったところ、10年以上継続されて累計で20社生まれて合計で累計700億円の売り上げと100億円の営業利益が出ているという。

しかし、サイバーエージェントは主力のCygameのゲーム事業で年間に300憶円以上の営業利益を生み出す会社である。「累計」で100億円の営業利益というのは、ほとんど業績にインパクトを与えるとは言えないであろう。

言い換えれば、意図的、組織的にベンチャースピリットの高いサイバーエージェントが新規事業を創造しようとしても、スケール間の大きい事業は産み出せないということだ。

ここに、問題の本質があると思われる。

結局、本当のベンチャー企業に期待するしかない

大企業は言うまでもなく、ベンチャースピリットがあるといっても、所詮、上場して大きくなってしまったリクルートサイバーエージェントは、もはやベンチャー企業ではないのだろう。

失敗しても、借金が残るわけでもないし、職を失うわけでもない。給与水準はそれなりに高いし、安定している。他方、新規事業が成功したところで、株とかもらえるわけではない。

上場してしまうと、中途半端なミドルリスク(下手したらローリスク)・ミドルリターンの会社になってしまうのだ。

この点、まだまだ新規事業を生み出せる志と、モチベーション制度を持っている企業はメルカリくらいではないだろうか?

結局、起業家が起ち上げる「本当の」「狭義の」ベンチャー企業に新規事業の創造を期待するしかないのではなかろうか?

新規事業の創造はベンチャー企業にしかできないとすると、ベンチャービジネスへの参加者を増やさなければならない

幸い、グローバルの金余り現象は日本でもあてはまり、ベンチャー企業を取り巻くファイナンス的環境は良くなっている。

VC(ベンチャー・キャピタル)やCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の企業数や資金額は膨らんでおり、投資先企業を見つけるのは大変だし、大したことがない企業(事業)に簡単に数億円の値段がつくようになっており、バブルとさえ言われている。

そこで、もう少し、ベンチャービジネスをやってみようという人材を増やす他はない。

しかし、ベンチャービジネスに関する情報が圧倒的に不足している…

ベンチャービジネスを立ち上げるには有利な環境にあるし、優秀な人材にとっては大手に勤めるよりも遥かに大きいリターンを上げることも可能である。

しかし、何といってもベンチャービジネスに関する情報は圧倒的に少ない。

これは仕方がないことであるが、非上場企業には上場企業のような開示義務が無いので、外から企業情報をつかむことは難しい。

また、採用側にとっても求職者側にとっても採用インフラが不足している。

リクルートJACなどの大手の転職エージェントを使用するベンチャー企業は少ないし、Wantedlyだけでは不便である。

また、学生については、就活支援情報は充実している。他方、ベンチャー企業は就活支援ビジネスにおいて、フィーを払ってくれるクライアントにはならないので、ベンチャー企業の情報はほとんどとりえない。

それに、当然だが、社員数でいってもベンチャービジネス従事者の人数は圧倒的に少ないので、OB訪問を通じた口コミによる拡散も期待できない。

結局、新規事業創造能力を有する人材は増えないので、ごく少数のエリートがうま味を総取りしてしまうのだろう…

このように考えると、少なくとも当面は新規事業を創造する能力がある人材の供給は増えないであろう。

したがって、ごくごく一部のチャレンジャーがそのうま味を享受できるのだろう。

AI関連のベンチャー企業に資金が集中して、高い株価がついたり、必要以上な出資を受けるのがその例であろう。

メディアもこのあたりをうまく伝えてもらいたいものだ。