ゴールドマンサックスのフィンテック戦略。投資とビジネスの両方で儲ける一粒で二度おいしい戦略。
まずは、得意の投資から始める。
ゴールドマンサックスはとにかく昔から目端の利く会社で、新しいテクノロジーや世の中のトレンドの変化に敏感で、行動もどこよりも素早い。
まだ米国でもフィンテックという言葉が浸透していない時期から、対応を始めていた。例えば、秀逸なのがこちらのオンデック社への投資である。
オンデック社は中小企業向けのオンライン融資事業を行うフィンテック系のベンチャー企業であり、ゴールドマンサックスは2012年に1億ドルの出資を実施している。
オンデック社は2014年にIPOに成功しているので、まずこの段階で儲けているわけだが、ゴールドマンサックスの狙いはベンチャー投資によるキャピタルゲイン狙いだけではない。
ゴールドマンサックスは翌2015年に自前でオンライン融資事業への参入を実施しており、それにあたっての「勉強」のためにもオンデック社への投資を行ったのだ。
中小企業への無担保での融資は金利が高く、うまく運営すると高収益が望めるビジネスである。ゴールドマンサックスの場合は大手の商業銀行とは違って店舗を有していないため、ネットによるオンライン融資事業は魅力があるのである。
また、ゴールドマンサックスはオンライン専業銀行のGS Bankを開設するなど、ネットを通じた中小企業/個人向けのビジネスを展開している。
従来、ゴールドマンサックスは機関投資家か大手の事業会社としか基本的に取引をしない企業であったが、フィンテックを機に、収益の多様化を求めて高い収益性が見込める中小企業や個人向けのビジネスにも進出しているのである。
早い時期からフィンテック・ビジネスを研究することによって、フィンテック系のベンチャー企業への投資を通じてキャピタル・ゲインを狙うとともに、出資したベンチャー企業を通じて自らのビジネスにも活用するのだ。
投資とビジネスの両方で儲ける、一粒で二度おいしいビジネスはゴールドマンサックスの昔から得意とするところだ。
We are a technology company.
これは、ゴールドマンサックスの会長兼CEOであるロイド・ブランクファイン氏の言葉である。実際、言葉だけでなく、ゴールドマンサックスは人事戦略においてもこれを遂行しており、ITエンジニアを競合の投資銀行よりも積極的に採用してきた。ゴールドマンサックスの全従業員数は3万数千人位だが、テクノロジー部門の従業員数は1万人以上存在するというのは驚きだ。
また、社内での教育や社内照会システムにも最先端技術を導入するなど、全社的にテクノロジー・カンパニーであることが浸透している。
日本の金融機関は、フィンテック系ベンチャー企業に業務を奪われるというリスクはないかも知れない。しかし、自らが積極的にフィンテックを活用して収益性を高まる努力をすることは必要だ。メガバンクなどはフィンテックファンドなどを使って、少額の投資はしているが、お付き合いでやっている感は否定できず、もっと踏み込んだ戦略を策定・実行することが必要ではないだろうか。