東大生は興味無い?双日の「中期経営計画2020」を読んでみた
1. 総合商社はどこまで受けるか?
総合商社の就活における人気は非常に高いのであるが、
総合商社は7社あるので、どこまで受けるかについては、様々な
考え方があるだろう。
三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠、丸紅までを大手五社と呼び、
双日と豊田通商は総合商社ではあるが、大手五社には入らない微妙な
位置になる。
しかし、大手五社という公式なグループがあるわけでないので、
それは特に気にすることもないのだが、問題は、
大手五社と、双日、豊田通商とでは、給与水準に明確な差がある。
だいたい、大手五社の八掛け位である。
このため、商社志望の場合、大手五社で留めておくか、
双日も真剣に内定を取りに行くか、考えどころである。
2. 歴史的には魅力がある
双日のホームページの「双日の歴史」を読んでみると非常に面白い。
双日は非常に歴史がある会社で、日本史を学習した人は知っているだろうが、
あの「鈴木商店」を源流とする歴史のある名門商社である。
旧鈴木商店の後継会社として、「日商」が1928年に設立された。
そして、戦後の1968年に岩井産業と合併し、日商岩井が誕生した。
日商岩井というのは、ロッキード事件で有名になったりもしたが、
トップクラスの企業ブランドを持ち、昔は、
「六大商社(今の五大商社+日商岩井)」という言われ方もして、
トップ学生の間でも人気があった。
しかし、歴史は繰り返すのか、1990年代の金融危機によって、
日商岩井の経営状況は悪化し、同じく、経営状況が悪化していた
ニチメンと、2003年に合併(持ち株会社の設立)することとなった。
結構な波乱万丈な半生であるが、「粘り強さ」「逞しさ」を感じる
ことができるであろう。
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3. 中期経営計画2020について
①4p:中期経営計画2017の成果
最初に、前の中期経営計画2017の復習をしているところが、優等生的で
好感が持てる。
ここで押さえておくべきは、規模感である。
当期純利益の目標が600億円以上であったところ、568億円と未達に
終わったようだが、331億円からかなりの増益を達成できた。
ここで頭の片隅においておくべき数字は、1ランク上の丸紅の純利益の
水準が2018/3月期で、2000億円を越えていたということだ。
同じ総合商社といっても、五大商社とはかなりの差があることがうかがえる
だろう。
(もちろん、面接等でこの話はする必要は無い。)
②5p:セグメント別当期純利益
こちらは、商社の面接において不可欠な、セグメント別の当期純利益
である。
商社は、各社毎の事業ポートフォリオとビジネス・モデルが全然異なるので
ここをきっちりと把握した上で臨まないと、的外れな発言をして、
速攻落とされかねない。
ここでのキーワードは、「収益の塊」ということで、
これはセグメント別当期純利益が50億円を越える本部のことのようだ。
3年前はわずか1本部だったのが、5本部まで増えたという。
要するに、収益の多様化に成功したというわけだ。
しかし、注意すべきは、稼ぎ頭の石炭・金属だ。
当期は219億円というダントツの数字を達成しているが、
3期前の2015/3月期は、27億円の赤字であった。
資源・エネルギーは市況に左右されるので、この数字の増減は
企業努力だけではいかんともしがたい。
他の「収益の塊」の4部門は、
自動車、環境・産業インフラ、化学、リテール・生活産業である。
これらに関心がある学生は、具体的なビジネスの内容を
掘り下げてみよう。
③10p:中期経営計画2020の目標
こちらは、今年作成された中期経営計画の数値的な目標である。
当期純利益は750億円以上と、前回と比べて20%以上の増益目標を
明示している。これは投資家的には好ましい話である。
また、ROE10%というのは、他の商社と(というか大手日本企業)と
大して変わらないが、前回の中期経営計画がROE8%以上という
目標だったので、ハードルを上げてきていることに注目される。
同様に、ROAを2%から3%超に、同様にハードルを上げてきている
ことも要注目である。
経営者からすると、ROEを2%上げるというのは結構大変なことなのである。
なお、ROEとROAの関係については、把握しておいて欲しい。
である。
「なんのこっちゃ?!」という学生は多いだろうが
(実は社会人も結構財務は弱い人が多い)、
双日も表面倍率100倍超の人気企業なので、こういうところはキッチリと
理解しておきたい。
わかっていないと、突っ込まれたら、即撃沈である。
あと、DER(Debt Equity Ratio)も合わせて復習しておこう。
④12p:安定的な収益の実現に向けた施策
文字ばかりでわかりにくいところであるが、
「投融資からの確実な収益貢献」と
「赤字・低効率事業からの撤退・見直しの継続」の
2項目について書かれている。
「投融資からの確実な収益貢献」というのは当たり前のことを
書いているだけなのだが、「赤字・低効率事業からの撤退・
見直しの継続」というのは興味深い。
何故なら、日本企業は赤字であっても切ることが苦手なので、
そのままダラダラと放置することが多いからである。
この点、数値基準(何年連続赤字、ROA〇%以下等)の具体的な
基準に言及されていないので、OB/OG訪問の際に聞いてみるのもいいだろう。
⑤14p:投融資からの収益貢献②
ここでは、頁の下半分に9事業部門の目標が掛かれているので、
チェックしておくこと。
お金のかかる資源・エネルギー以外だと、
自動車、航空産業・交通プロジェクト、リテール・生活産業、
化学あたりが比較的金額が大きく気になるところである。
1つの事業分野に過度に偏っていることはないので、
比較的バランスが取れた事業ポートフォリオと言えるのではないだろうか?
4. 他社との比較、全体観
大手五社との最大の違いは何といっても規模感である。
利益の水準は丸紅の三分の一以下である。
もっともこれは言っても仕方がない。
全体観としては、頁数は26pと分量的には多めで、しかも、冒頭で
前回の中期経営計画の復習から入っており、全体的に丁寧に
作られた印象がある。
また、結構な水準の(2割以上)の増益、ROE向上目標を明示しており、
成長意欲の強さも確認できる。
しかし、数字は各事業部の寄せ集め的な感じがあり、三菱商事のような
一体感や改革(人事制度改革、組織改革等)の迫力はあまり
感じられない。
もっとも、この点は、合併した会社なので、その点は難しいのかも知れない。
まとめ
鈴木商店の地を引く、非常に歴史のある名門企業ではあるが、金融危機の影響を
受けており、大手五社と比べて、利益水準でも大きく見劣りするし、
何よりも給与面等の待遇でも見劣りするのはつらい。
また、細かい話かも知れないが、新入社員向けの独身寮が常磐線沿線の
不便なところ(流山)にあるのは、せっかく晴れて(総合)商社マンに
なれたし、それなりに最初からいい給料をもらえるのに、遊びに行けず
不便である。
その点をもろもろ考えると、大手五社で切って、あとは、金融プロフェッショナル
に賭けるというのもありである。
なお、双日になると、慶応、早稲田、東大、京大の人数がぐっと減るので、
MARCH、関関同立に十分チャンスがあるようにも見えるが、それらの
内定数は大手五社と変わらない。
これは、新卒の採用人数自体が大手五社よりも小さいため、パイが小さく、
上位校からも一定数行くので、その他校枠が小さくなってしまうからであろう。
もっとも、チャンスはあるので、挑戦する価値はあると思われる。