グリー(GREE)の決算を見て、大手ベンチャーへの就職・転職への意味を改めて考えてみた。
- 序. 業績が伸び悩むグリー
- 1. まだまだ就職難易度が高い人気企業
- 2. 本業のゲームが儲からなくなってきている…
- 3. 育たない新規事業
- 4. 何故新規事業が育たないのか?
- 5. 新卒でグリーに入って得ることができるもの
- 6. 新卒でグリーに入社する場合、その後のキャリアまで考えているだろうか?
- 7. 同じコンセプトで就活するなら、むしろ小規模のゲーム会社が狙い目では?
- まとめ
序. 業績が伸び悩むグリー
2018年8月2日にVTuberを使って派手な決算説明会を開催したグリーであるが、その後、株価は下落基調にあり、2018年10月11日にはザラ場で500円を割ってしまった。
時価総額は1000億円以上キープしているが、この調子でいくと、いつ大台割れするかはわからない。
最盛期には営業利益が1000億円近かったのだが、直近では100億円を切る水準に下がっているし、新規事業は育たないため、先行きの見通しが立たないからであろう。
1. まだまだ就職難易度が高い人気企業
しかし、グリーを始め、DeNA、Mixiといったゲームをメインビジネスとする大手ベンチャー企業の就職或いは転職における人気は高い。
グリーは、採用数や採用実績校を明らかにしていないが、東大、早慶などのトップ学生が会社訪問をするという。
人気の理由としては、「安定」していながら、「新規事業」に関与できるということが挙げられる。
「新規事業」というのは、学生にとって殺し文句のようで、総合商社でも「新規事業」を志望動機として掲げる学生は少なくないという。
確かに、今の日本企業にとって最も必要だが圧倒的に不足している人材が「新規事業」ができる人達だし、「新規事業」をやると、将来起業につながったりしそうで、夢がある職種だと考えられる。
確かに、グリーも新規事業には熱心であるが、果たしてグリーで新規事業をやることに本当に魅力があるのだろうか?
まず、前提として、グリーの決算状況を確認しよう。
2. 本業のゲームが儲からなくなってきている…
①直近の決算説明会用資料に見る現状の収益性
2018年6月第4四半期の決算説明会用資料を見ると、営業利益は94億円となっている。
2017年度通期が80億円なので増益となっている。
セグメント別の利益額は開示されていないので、ほとんど全ての利益がゲーム関連と推察される。
収益を産まない新規事業を含む「広告・メディア事業」の利益(損失)を明示したくないのであろう。
この点は、従来と変わらないのであるが、問題は利益の絶対額である。最盛期は通期の営業利益が1000億円近かったが、十分の一程度にまで下がってきている。
また、翌四半期(2019年度1Q)の営業利益予想は15億円なので、近日中に好転する兆しもない。
②不安な点は海外展開
更に不安な点は、主力のゲーム事業で海外展開を考えていることだ。
過去にグリーは、ゲーム事業で海外進出を図り大型M&Aを実施したが、失敗に終わっている。
今回は、事業パートナーと連携するということでリスクを抑えるつもりなのだろうが、そもそも日本のスマホゲームは海外では流行らないだろう。
「洋ゲー」と「和ゲー」ということで、ゲームに対する考え方が根本的に違っているからだ。
この点については、こちらのブログの記事が詳しい。
海外展開といっても多額の資金を投入するわけではなさそうなので、これによるダメージは大きくないかも知れないが、問題はそれではない。
再び、海外を当てにしなければならないほど、国内事業でゲームを当てる自信が無いということだ。
ゲームの製作費は高騰しており、ガラケー時代には数千万円・1か月で開発できたものが、スマホアプリに移行した段階で1億円を超えるようになった。
今ではTVCMを始めとする広告宣伝費が嵩むので、トータルで1タイトル開発するのに5億円近くかかるようになったと言われている。
しかし、それこそがグリーの存在価値なので、そこは自信を持って投資・開発してもらいたいものだ。
3. 育たない新規事業
主力のゲーム事業がシュリンクしてきたので、新たな収益減を育てる必要があり、事実、グリーは新規事業に熱心である。
新規事業を育成するには、ゼロから自分たちだけで手掛ける方法と、外から買ってくる方法(M&A)の2つの方法がある。
ところが、このM&Aによる育成が全くうまく行かないようだ。
数年前にゲーム会社のポケラボで巨額の特損を出したが、今年度は新規事業である動画の3ミニッツで31.5億円にも上る特損を計上してしまった。
また、グリーの場合、既に同業他社が手掛けている新規事業を参考に、自社も取り組むようであるが、成果は出ていないようだ。
今後は、ゲームに続く第二の柱として広告・メディア事業を、第三の柱としてライブエンターテイメント事業にフォーカスするようであるが、うまく行くかはよくわからない。
4. 何故新規事業が育たないのか?
新規事業が育たない理由としては、仕組み自体の問題と、運営・環境の問題があると思う。
まず、仕組みの問題として、グリーでは新規事業が成功する体制ができていないのではないだろうか?
何といっても、インセンティブが無い。新規事業が育ったところで、新規事業担当者は株をもらってIPOさせるというわけではないので、何の金銭的なモチベーションも無い。
他方、本当の零細ベンチャーとは違って、無借金かつ870億ものキャッシュを有するグリーには余裕がある。新規事業がコケたところでクビになることもない。
また、Vorkersのコメントなどを見ると、グリーの年収は所属する事業部によって大きく異なるようであり、新規事業部門は儲かっていないのでもともと給与水準が高いわけではないので、失敗することによるダウンサイドは限定されている。
従って、グリーでの新規事業は、成功しようが失敗しようがリスクもリターンも小さく、何が何でも成功させようといういい意味のプレッシャーがかからないのではなかろうか。
また、定性的な話であるが、グリーには新規事業を育てようというカルチャーが不足しているのかも知れない。
というのは、収益性が落ちたとはいえ、100億近い利益を出しているし、自己資本比率90%、借入金無し、保有キャッシュ870億円という盤石のバランスシートである。
「何とかなるだろう」という状況であり、ハングリー精神に欠けるのではないだろうか。
Mixiがモンストを産んだのは会社が潰れるかもしれないというどん底の状況であった。
やはり、ベンチャー企業というのはプレッシャーの中でのモチベーションとリスクを抱えた環境の方が、本気が出せるのではないだろうか?
5. 新卒でグリーに入って得ることができるもの
「新規事業」がやりたくてグリーに入社したとしよう。
ゲーム事業部以外の配属、すなわち、広告・メディア又はライブエンタメ部門であれば新規事業を経験することは十分できるだろう。
しかし、成功したところでストックオプションがあるわけではないので、経済的なインセンティブは無いし、そもそも、成功という実績を実現できるかどうかは全くわからない。
このため、グリーで新規事業に成功して短期的に大儲けするとか、成功実績を引っ提げて、ステップアップの転職や起業というのは楽観的な見通しではなかろうか。
もっとも、新規事業には関与できそうなので、どのような手順で新規事業を立ち上げるのかといった手続き的なノウハウを取得することはできるだろう。
こういった経験は他社ではそもそもできないので、結果が出なかったとしても、新規事業を企画、起ち上げ、運営まで一通りやってみるというのは有用なスキルになるし、転職カードとしても十分使えるだろう。
6. 新卒でグリーに入社する場合、その後のキャリアまで考えているだろうか?
グリーにせよ、DeNAにせよ、大手ベンチャー企業に終身雇用のつもりで入社するトップ学生は多くないだろう。給与や退職金等の面で、金融・商社・インフラ等に見劣りするからである。
他方、自ら起業・独立したり、その上を貪欲に目指すという人も多くは無いのではないだろうか?
そこそこ給与水準はいいし、Vorkersを見ると社内の風通しも良好で若い人にとっては働きやすい環境だろう。それに、新規事業に携えるという満足感もある。
しかし、売上800億で連結ベースの従業員数が1500人の大企業となってしまった今、放っておくと中途半端なキャリアになってしまうリスクがある。
外銀・外コンほどのキャリアではないが、金融・大手製造業よりは上だという意識で入社して、新規事業を一通り経験しても、それだけだと、30を過ぎて若さを失うと転職力(市場価値)は落ちてしまう。
そうなった場合に、「このまま定年までいてもいいや」とは思えないのが大手ベンチャーの辛いところである。
このため、3~5年後には、ステップアップのための転職をするつもりで、その後のキャリアも想定しておいた方がいいのではなかろうか。
7. 同じコンセプトで就活するなら、むしろ小規模のゲーム会社が狙い目では?
外コン・外銀・総合商社は入るのが難しすぎるし、銀行・保険・インフラは退屈だ。でも、零細ベンチャーのような激務で安月給は嫌だ。
だから、アップサイドも狙えて安定性のある大手ベンチャーという考え方は理解できる。
ただ、最近のグリー、DeNAの状況を見てみると、同じコンセプトであれば、むしろ小規模のゲーム会社の方が面白いのではないだろうか?
何といっても、グリーもDeNAも社員数が多すぎでもはや普通の大企業に近い。
それに、規模が小さいからと言ってリスクが高いわけではない。何故なら、安定性というのは一人当たりの売上/利益という指標も重要なので、小規模ゲーム会社は実は安定性が高いのである。
そして、遥かに少人数でまだまだベンチャーのカルチャーが残っている。
いずれにせよ、2社目を狙わないといけない人生なので、そうであれば、知名度は劣るかも知れないが、小規模優良ゲーム会社も会社訪問してみてはどうだろうか?
例えば、以下の2社、アカツキとドーナツはおすすめである。
両者ともに300名+αの規模感だ。
〇アカツキ
〇ドーナツ
www.donuts.ne.jp
まとめ
「新規事業」創出能力というのは、ある意味日本で最も求めらるスキルであろう。
この点、「新規事業」を求めて大手ベンチャーに走るトップ学生の志向は理解できる。
他方、形式的には「新規事業」に携えても、実質的な「新規事業」創出能力は習得できない恐れがある。
所詮はベンチャーであるので、2社目以降の将来を踏まえた上で、1社目を戦略的に選択することが成功のカギとなろう。