HRテック企業、アトラエ(Green)への転職(又は新卒)について年収・将来性から検討する

 

序. 何故HRテックか?

HRテックとは、AI等の最先端のIT技術を駆使することによって、採用、教育、評価、配属といった人事関連業務の効率性と質の向上を目指すサービス全般を言う。

転職或いは新卒採用でも、HRテックを行う企業が面白いと考えられるのであるが、その最大の理由は、HRテック市場の規模と将来性である。

市場規模は2兆円とも8兆円とも言われており、既に米国ではベンチャー企業ユニコーン企業もいくつも登場している。日本は米国に遅れて流行のITビジネスを追随する傾向が強いので、今後国内市場が成長していくことが期待される。

また、日本では人事部門が強い権力を握っていることが多く、予算もある。そして、人事部門は収益部門ではないので、効果があるかどうかには関係なく、実績作りとして新しい仕組みを導入するのが大好きだという特質がある。

さらに、日本人(日本企業)は右へ倣えなので、同業他社が始めると追随せざるを得なくなる性質がある。

以上の観点から、HRテックは将来性のあるビジネス分野で話題のAIが絡む部門でもあるので期待できるのである。

1. どういった企業がHRテック企業として有望か?

大手では何といっても王者リクルートである。事業規模、ネームバリュー、資金力、人材と何を取っても大本命である。

また、パーソルとかの人材派遣系大手も資金力があるし、リンクアンドモチベーションといったブティック系企業は三菱総合研究所のようなシンクタンク系もある。

ベンチャー系であれば、ビズリーチ、Wantedlyアトラエなどがある。

2. 何故、ベンチャー系に注目するのか?

アトラエに限らずベンチャー系企業が面白いと思うのは、HRテックビジネスの会社に対するインパクトが、大手と比べて格段に大きいと期待できるからである。

リクルートとかパーソル、三菱総合研究所ではHRテックは業務部門の一部に過ぎないからである。

ベンチャー系であればHRテックビジネスが成功すれば、従業員として金銭的にも評価的にもより大きなリターンを得られる可能性があるからである。

3. ベンチャー系の中でアトラエに注目する理由は何か?

アトラエの魅力は、利益「率」が高いことである。金額の絶対水準はまだ小さいものの、売上高営業利益率が30%以上、売上高税引き利益率が20%以上あり、高い収益力を誇っている。この点、黒字化するのにアップアップな感があるライバルのWantedlyとは異なる点である。

それから、主力の成功報酬型求人メディアであるGreenという競争力を有するビジネスを有しているところである。

そして、何といっても転職希望者(或いは新卒含む)の観点から、最大の魅力は従業員の人数が少ないことである。2018年の6月末時点でわずか43名である。

これは、個人として成功した場合には、それによって得られるリターンも大きい可能性があるということである。この点同じベンチャーであっても、既に従業員が1000人規模のビズリーチでは見出せないアトラエの魅力である。

4. それでは、アトラエの企業分析をしてみよう

アトラエ社 直近決算説明会資料)

http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1625618

 

新卒の学生ではないが、募集中のポジションを見る前に、企業業績と財務諸表に基づき基本的な企業分析をしてみよう。

今期の通期予想は、売上22億、営業利益6.5億、前年度比の成長率が約20%と順調に成長している。

株価時価総額も10月3日引値ベースで330億円以上あり、ベンチャー企業全般に株価は逆風の中、公募もうまく吸収しているものと思われる。

事業内容については、現状はGreenの一本足打法であり、それが収益の大半を稼いでおり、将来に向けてWEVOX、YentaといったHRテック領域の新規事業を育てていこうとしているステージである。

そして、BS(貸借対照表)における最大の特徴が、借入金ゼロの完全無借金経営ということである。自己資本比率は90%を超える。しかし、レバレッジが全然かからない中、通期予想ベースでROEは10%を超え、これが株価を支えている。

全般的に見ると、成長企業でありながら、財務的に超堅実経営であり、新居社長の人柄までわかってしまいそうである。この会社は設立が2003年と上場までに10年以上かかっており、一発短期勝負ではなく、長期で堅く価値に行くタイプではないかと推察される。この点、投資銀行出身の仲さんとは対照的にも見える。

もっとも、将来大きな勝負をするために、今は固くやっているのかも知れないが…。

5. アトラエの経営上の課題は何か? ~①バランスシートの活用~

まず、課題は売上、利益の「絶対額」の向上である。利益率は申し分ないが、それは分子である利益の金額が小さいことが課題である。通期予想で営業利益が6.5億円位の予想であるから目先の目標として二桁(10億円)の利益を目指したいのであろうが、100億円を超えるようなシナリオを描いてもらいたい。そうすれば、時価総額3000億円規模のインパクトのある会社になれる。

まあ、そこまで行かなくとも営業利益ベースで20億円になると、時価総額1000億円が射程圏内になるだろう。

利益の絶対額は別に営業利益でなくとも構わない。新規事業を手掛け、それを事業売却することによる特別利益でも構わない。実は新規事業のM&Aによって利益を出せるベンチャー企業は極めて少ない。多くのベンチャーは反対に、新規事業を外から買って大損しているケースがほとんだ。

HRテックはすそ野が広いので、面白いビジネスを作ればノンコアの場合に、外に売却して利益を得らえる妙味がある。これが本当の意味での価値創造企業であるので、アトラエが新規事業の売却で利益を出せるような会社になれば面白い。

話が逸れたが、少々利益率は落ちたとしても利益の「絶対額」を高めることがプライオリティであることは間違いないであろう。

そこで、気になるのが、将来のBSをどう考えるかだ。この点については、会社説明会用資料では言及されていない。

今は、総資産35億円、純資産33億円という非常に小さいバランスシートを使ってビジネスを実行している。HRテックという成長分野であること、そして、今期にファイナンスを行って東証一部に鞍替えしたということは、相当ambitiousであることの証左である。したがって、そのためには、将来のキャッシュを稼ぐためのエンジンとしてもっとバランスシートを大きくしていくことを考えてもいいのではなかろうか?

現在の財務状況だと、借入を使ったレバレッジの余地が十分にある。

そして、現在の稼ぎ頭であるGreenにもっともっと投下し競争力をさらに高めていくことができないか?

あるいは、M&Aは不要だが、新規事業のために他社のスタープレイヤーを高給で連れてくることも一案だ。

将来の成長に向けて、バランスシートをフル活用していけるかどうかがカギとなろう。

5. アトラエの経営上の課題は何か? ~②新規事業について~

現在進行中の2大新規事業、WevoxとYentaがマネタイズできるようになるかが課題である。決算説明用資料を見ると、既にある程度のクライアントを獲得できているようだが、それから具体的にどれくらいの売上・利益が立つのかは現段階では不明である。

また、成否の見極めをどの段階で決めるのかといった点もよくわからない。

HRテックのような成長領域では、ベンチャー企業が新規事業を展開するのはリーズナブルである。

問題は、新規事業をポートフォリオとして適切に管理できるかである。

新規事業は当然全て成功するわけはない。成功する案件もあれば失敗する案件もある。

それを、VCのように、複数の新規事業をうまくポートフォリオとして管理し、ダメそうな案件は売れる間に他社に売却したり、損切りしたりし、また、有望な事業が見つかればそれを事業ポートフォリオに新規で取り込むといった複数の事業の管理ができるかである。

このあたりについては、採用の面接にたどり着いた暁には、経営者と話してみるべきだろう。

6. 中途採用における機会について

以上を踏まえると、アトラエは成長分野におけるベンチャー企業であるものの、少数精鋭の堅実経営の社風であることがうかがえる。

ポジション的に考えて、外銀は不要である。ファイナンスを成功裏に行い、時価総額と財務健全性を両立させている。CFOは優秀であると思われ、高いお金を払って外銀を採用する必要はないだろう。

また、戦コンも不要である。アトラエは少人数のスモールオペレーションでやっている。従って、戦コンが得意とする効率化やコストカットは不要であるので、高いお金を出して戦コンを採る必要もない。

ニーズがあるのは人材領域で新規事業を創造できる人材であろう。

リクルートのエース級の人材を引っ張れるかだ。そこで気になるのは、既に上場してしまっているのでストック・オプションが効かないことだ。

とはいえ、求職側からすると、中途採用の場合、金銭的なインセンティブが十分でないと優秀な人は行かない。

アトラエの場合、数人でいいのだが、新規事業を創造できる優秀な人材はお金をかけても採るべきなのだが、それを提供できる仕組みがあるかどうかが課題だ。

メルカリのようにエグゼクティブ・サーチ・ファームを使ってまで本気で良い人材を高給で引き抜こうという本気度が、この会社にもあるのかどうか気になるところである。

子会社株を渡してもいいし、新居社長の自社株を金庫株のようにストックボーナスとして使うなどいくらでも方法はある。ソフトバンクも上場直後には、孫さんの持ち株を使う疑似ストックオプションを使うなど、あらゆる手を尽くして優秀な人材を採用していた。

アトラエはHRテックの会社であるのだから、自らがそういった制度を開発すべき立場るし、ビジネスの種に使うこともできる。

他社のスター人材でも、「800万円が上限」といった他のIPOゴールの並みのベンチャー企業と同じでは悲しすぎる。

もっとも、ここは小規模なのでフレキシブルな対応も可能だと思うので、可能性があるのであれば、じっくりと話してみればいいのではないか。

7. 新卒におけるアトラエ入社の考え方

ここはVorkersのコメントなどを見ても、給与水準は高くない。

しかし、少数精鋭で働きやすい環境にあり、HRテックという先端部門における知識と経験を身に着けることができる。

したがって、給与水準は他の一流企業と比べると大きく劣るのだろうが、転職力という面では相当期待できると思う。

Wantedlyなどを見てみると明らかだが、人事系の求人は極めて多く、アトラエ自身がベンチャー企業であるため、他のベンチャー企業への転職は容易であろう。

また、この分野で詳しい若手は大手の人事部門にはいないし、だいたい大手の人事系はテック系に弱いので、途中でリクルートとかヤフーとかの大手に行くことも可能であろう。

特に高学歴の者にとっては、高学歴⇒ベンチャー企業⇒大手企業、というキャリアパスは使えるので面白いと思う。

(高学歴⇒ベンチャー企業⇒大手企業のキャリアパスについては、この過去記事を参照下さい。) 

blacksonia.hatenablog.com

ある意味、ここに入れば、途中でリクルートなりサイバーエージェントでもどこでも入れそうだから、大変面白いと思う。

インターンなどでトライしてみるのがいいかと思う。

8. ちょっと気になること ~自社の採用ページが「紺屋の白袴」状態であること~ 

株式会社アトラエ | Atrae, Inc.

少し気になったのが、自社の採用ページが寂しいことである。

まず、募集ポジションを限定するのは良くない。別に急募でなくてもいいので、全ポジションについて、優秀な人は何時でも採りますという姿勢を示した方が良い。

例えば、これだと現時点では経営企画、財務などのコーポレートスタッフは募集していないことになる。

となると、「この会社はコーポレートスタッフはどうでもいいのだ」と思われてしまう。

実際に、自社のホームページでの採用の効果があるかどうかは別として、採用の会社であるのだから、IRやマーケティングの観点からも、ゴージャスな採用ページにするのが望ましい。

この点については、残念ながら、ライバルのWantedlyに負けてしまっている。

こういうのは、インフォーマルな社内プロジェクト、「われわれの会社の採用ページをカッコよくしよう!」といったものを立ち上げて楽しくやるのでもいいのだと思う。

まとめ

HRテックという有望分野で、少数精鋭の堅実経営のユニークな会社である。

ただ、中途採用という観点からは、株でも給与でもなんでもいいので、経済的なインセンティブを付けてもらえるかが気になるところである。

新卒については、単なる「安定性」「目先の給料」ではなく、「転職力」「成長性」という観点からは大変妙味がある。インターン等の機会を利用して雰囲気を掴むのがいいのではなかろうか。