【書評】「転職の思考法」読了。面白いが、大企業からベンチャー企業への転職は最適解か?

NewsPicksでも取り上げられ、アマゾンでも高評価の転職本を読んでみた。

著者の北野唯我さんは、博報堂からボストン・コンサルティング・グループを経て湾キャリアというベンチャー企業に転職されている。

3社に在籍経験をお持ちだが、国内系、外資系、ベンチャー系とあらゆるジャンルを経験しているのが特徴だ。

外資系戦略コンサルタントだけあって、理路整然とした切り口で、「マーケット・バリュー」とか「判断軸」とか新しい見方を取り入れているのはさすがである。

また、物語風に書かれており、楽しみながら読み進めることができる。

気になったのは、主人公が大企業からベンチャー企業に転職することになるのだが、果たしてそれは妥当なのか?

書かれている内容自体はロジカルだし、妥当だと思うのだが、気になったのは主人公が大企業からベンチャー企業に転職することになるのだが、果たしてそれは妥当なのだろうか?

特に、この本は主として転職未経験者を対象として書かれているところ、大企業からベンチャー企業への転職は難易度が高いと考えられるからである。

主人公の勤める大企業は傾いているので、そこを辞めるという方向性は問題ない

転職を考える場合には、少なくとも2つのチェックポイントがある。

1つ目は、今の会社に残るという選択肢はダメなのかどうか検討すること

2つ目は、行き先の候補となる会社はいい会社なのか検討すること

本書においては、1つ目の点はあまり問題が無い。大企業ではあるが、待遇が良くない上に、将来性も良くない。したがって、辞めたところで失うものは大きくない。

問題は、2つ目の行き先だ。行き先がより良い大企業であれば比較的簡単なのだが、行き先がベンチャーというのは難易度が高いからだ。

行き先は、国内系大手⇒外資系⇒ベンチャーの順で難易度が高くなる。

一般的にこの公式は理解できるのではないだろうか?

国内系大手の場合は上場しているケースが多く開示情報も多いし、歴史もある。

他方外資系の場合は本国ではそれなりの実績があるケースが多いのだろうが、日本では未知数の場合も多いし、何よりも終身雇用に立脚していないので、リストラのリスクは国内系大手よりも遥かに高いと一般に言える。

ここでいうベンチャー企業は主人公が選択したようなベンチャー企業で、本当のベンチャー(従業員数が100人未満で未上場)企業としよう。ヤフーや楽天、またメルカリのような会社は除いて考えよう。

そういったベンチャー企業の場合には、外国での実績すら全くなく、歴史も極めて浅いケースが多い。数年後にあるかさえわからない。さらに決定的なのが、ネームバリューも給与面でも競争力が無いため、失敗した場合には、何も残らなくなってしまうからである。

他方、国内系大手や外資系にいって失敗した場合には、会社としてのネームバリューや給与面の履歴は残るので、同業他社であれば復帰しやすい。

ベンチャー企業の善し悪しはどうやって判断するのか?

本書では以下のような3つの分析の視点が述べられている。

〇競合はどこか?そして、競合「も」伸びているか?

〇現場のメンバーは優秀か?

〇同業他社からの評判は悪くないか?

実は、この3つのチェックポイントは突っ込みどころ満載である。

まず、競合はどこかといっても事業分野自体が新しく、公開情報も少ないベンチャー企業の分析は難しい。例えば、教育ベンチャーといった場合に思い浮かぶ企業は少ない。スカイプ英会話のレアジョブとかSchooとかすららネットワークとかあるが、事業分野やビジネスモデルはそれぞれ異なり、判断が難しい。また、ベネッセや学研などの既存の大手が立ち上げる新規事業ともバッティングする可能性がある。

現場のメンバーが優秀かどうかと言っても、専門分野が違えば、判断できない。営業や経理の人間が、エンジニアやWebマーケティングの専門家の優秀さを見分けることは不可能だろう。じゃあ、結局、人当たりの良さとか話のうまさといった表面的な事象でしか判断できない。

同業他社の判断など、そもそも情報源がない。ネットの評判は参考にできるかも知れないが…。

外資系戦略コンサルタントとか投資銀行の社員だとある程度の分析力はあるかも知れないが…

コンサルタント投資銀行の社員だと、ある程度の企業分析や将来性の予測はできるかも知れない。しかし、本書の主人公のような30歳前後の普通の事業会社の営業職にベンチャー企業の将来性を分析させることは普通は無理だろう。

となると、結局、転職エージェントのアドバイスをうのみにしてしまうリスクが高くなる。

以上より、日本の普通の大手企業からベンチャー企業に転職するのは難易度が高いということを認識してもらう必要があるのではないだろうか。