40代の銀行員の転職が難しいこれだけの理由

 

AIに将来仕事を奪われるとか、新卒採用大幅減とかで、就職人気ランキングが下降した銀行であるが、メガバンクなどはまだまだランキングの上位にある。

ところが、入社後20年近くが経過した銀行員の市場価値はどうなのだろうか?

先日、知人のメガバンク勤務の銀行員(41歳、早稲田卒)から転職について相談を受けた。彼は基本的にリテール業務が中心であり、市場部門や海外で働いたことがない。年収は1,300万円位という。転職の条件としては、今から60歳までに期待される年収の合計額が銀行で働き続けるのと比べて下がらないということだ。

この条件を前提とすると、彼の転職は極めて難しい。彼に限らず、リテール業務がメインキャリアのメガバンクの40代の行員の転職は同様に厳しいであろう。

1. そもそも年収の水準が高いので、転職のハードルが高い

40代のメガバンクの行員の年収は1,200~1,400万円程度だという。意外に知られていないかも知れないが、メガバンクは終身雇用ではない。52歳くらいになると役員にでもならない限り出向に出されてしまう。3年位は年収保証をしてもらえるので、41歳の彼の場合は、1,300万円×14年(52歳-41歳+3年)に加え、手厚い退職金(想定3,500万円)がもらえる。そして、55歳から60歳まで出向先で現状の半分程度の年収650万円が支給されるとすると、彼の60歳までの想定収入合計は、何と約2億5000万円(2億4950万円)だ。平均すると、一年あたり、約1,300万円だ。

こうなると、1,000万円がなかなか難しいベンチャー系の場合、対象から外れてしまう。また、銀行の場合、出向先に完全に転籍となるまでは年収や退職金は事実上保証されるわけであるから、リスク度合いを加味すると、ますますベンチャー系では割が合わなくなってしまう。

2. そもそも銀行員は英語ができない。

メガバンクの給与水準に対応できるのは、昔から外資系金融機関である。40代になってから外資系金融機関に転職することは、外資系銀行や外資系運用会社の場合には、ポジションは減るものの不可能ではない。(若手中心で40歳以上がほとんどいない外資系証券会社の場合は難しい。)

ところが多くの場合、彼も含めて問題となるのが銀行員の英語力である。ソニートヨタなどの利益の半分以上を海外で稼ぐ製造業と違って、銀行の場合は利益のほぼ100%は国内で獲得する。したがって、海外勤務や市場部門での経験がある一部のエリートを除くと、英語ができない銀行員が圧倒的多数である。40歳を過ぎてから英語をマスターするのは現実的でないので、途中から外資系に転身しようとしても最早手遅れなのである。

3. 銀行員はテクノロジーやインターネットに疎い

銀行は典型的な規制業種であり、手掛けていいビジネスは限られている。銀行の場合、融資と内為と呼ばれる送金・決済業務、それから公共債ディーリング位に業務が限られる。従って、いろいろなビジネスモデルを工夫して編み出すインターネット系の業界とは思考・行動パターンが全く異なる。

また、社内カルチャーも年功序列・官僚的で、自由闊達なインターネット系のベンチャー企業とは相計れないケースが多い。実際、インターネット業界を何故か見下している銀行員も少なくないのではないだろうか?

4. そもそも普遍性のあるスキルを持っている銀行員は少ない

何よりも問題なのが、業界横断的に使える汎用的なスキル、例えば、財務、人事、広告・宣伝といった専門性を持っている銀行員は少ない。

①株式関連業務に弱いので、財務・経理といっても、専門性は限られる

銀行員というと、財務諸表周りは強いだろうと思われる。確かに、財務諸表位は読めるだろう。しかし、銀行員は業務として株式業務を扱わないので、株価関連やIPO関連業務には全く詳しくない。従って、有望ベンチャーで求められるIPO、IR、M&Aといったファイナンス系のスキルを求められても対応できない。結局、CFOポジションでは難しく、経理・会計担当のポジションに絞られてしまう。

②人事・労務関係のスキルはリテール業務じゃ身に付かない

Wantedlyとかで検索すると、人事・労務関係の求人ニーズは非常に強い。ベンチャー企業は人がすべてなので如何にいい人材を採用できるかがカギとなるので、優秀な人事・労務の専門家が欲しいのだ。ところが、銀行の場合、人事は一部のエリートのみが異動できるポジションであるし、しかも、ローテーションなので人事・労務のスキルを銀行員が習得するのは難しい。

③広告・宣伝的なマーケティング・スキルが無い

広告・宣伝のスキルはベンチャーに限らず、普遍的にニーズがあるスキルである。ところが、銀行に限らず金融機関の場合、規制業種で提供するサービスは同じであるので、昔からマーケティングには無頓着な業界であった。そもそも、金融機関には「広報/宣伝畑」という概念すらないので、広告・宣伝のポジションには応募できないであろう。

5. それでは反対に、どういった銀行員なら転職が可能なのか?

以上のように、条件を一つ一つ見ていくと、40代の銀行員の転職は極めて難しいことがわかるだろう。

それでは、どういった銀行員であれば40代でも転職が可能なのだろうか?

それは、結局下記の条件を最低でも一つできれば複数クリアできることが必要であろう。

〇年収が大幅に下がってもいいと考える。

〇英語が得意である。

〇Codingができる(IT部門)、或いはインターネット業界に友達が多い

〇株式等ファイナンス業務に強い。

〇事業会社から銀行に転職したため、人事・労務或いは広告・宣伝の業務経験がある。

〇行動力や情報収集力に長けており、多くの人材エージェントに登録している。

 

基本的に40歳になってから動いても、短期間での習得は容易ではない。

何があっても最後まで銀行に骨をうずめる覚悟がなければ、30代のうちから各種スキル磨いておく必要がある。